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札幌地方裁判所岩見沢支部 昭和27年(ワ)49号 判決 1953年1月31日

原告 相沢忠良 外九名

被告 三井美唄炭鉱労働組合

主文

被告組合が昭和二十七年六月十五日大会の決議により原告等に対してなした除名処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告組合の負担とする。

事実

(請求の趣旨)

原告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

(請求の原因)

原告等訴訟代理人は、請求の原因を次の通り述べた。

第一、原告等は、いずれも、石炭採掘を業とする訴外三井鉱山株式会社美唄鉱業所の労務に従事する従業員であり、かつ、同鉱業所の従業員をもつて組織する被告組合の組合員である。

第二、会社は、従業員の人格識見の向上を図るため、昭和二十七年五月二十二日から同月二十八日迄神奈川県江の島において、教養教育を内容とする従業員特別講習会を開催し、被告組合に対し、組合幹部及び組合員の受講参加者の選定を申込んだが拒否されたので、会社は、同月十七日原告等に対しこの講習会に出席を命じた、しかるに、他方、被告組合は、同月十九日執行委員会の決議をもつて右講習会への組合員の参加を禁止し、原告等に対しこれに従うよう指示するところがあつたが、原告等は、会社の命に従い同月二十日美唄を出発江の島に出張し、右の講習会に参加し所定の講習を受け、翌六月一日帰山した。

第三、ところが、被告組合は、組合規約第五十三条によると組合員が組合の統制をみだしたときはこれを除名することが出来ることになつているところから、原告等の右の行為は組合の統制をみだしたものであるとして、同月十五日大会の決議をもつて原告等を除名した。

第四、しかしながら、右の除名決議は、次の理由により無効である。

(1)  右の講習会は、会社が、企業の効率的生産とその永続性とを確保するためには、従業員が企業全体に対する理解を深め、相協調融和して、職場における秩序と責任を尊重することが必要であり、従つて、従業員に対する教養教育は、技術教育、保安教育と共に企業に直結し、企業経営上必要欠くべからざるものであるから、この企業経営上の必要に基き、業務として開催したものである、単に、従業員に対する福利施設の一環として恩恵的に行つたものではない。

従つて、原告等に対する会社の講習会参加の命令は業務上の命令であり、原告等は、従業員として雇傭契約乃至は労働契約上の義務として、これに服従する義務がある、原告等の講習会への参加はこの義務の履行である。

しかして、労働組合が、その団結を維持するため、所属の組合員に対し統制を加えうる場合のあることは勿論であるが、右のような従業員として義務づけられた業務上の行為に対しては、たとえ、それが組合の団結に影響のある場合でも、争議の場合は別として本件のような平時においては、会社に対する団体交渉等によることなく、直接統制を加えることは許されない、けだし、これを許せば会社の企業の運営を阻害することとなり、正当な組合活動とは言い難いからである。

(2)  右が理由ないとしても、原告等が、右のような講習会に参加して教育を受けることは、国民としての基本的な自由に属し、しかも、右講習会は反組合的なものではなく、原告等もまた反組合的な意図のもとに参加しようとしたものでもないから、被告組合がこれに制限を加えることは許されない。

(3)  のみならず、受講者が、受講後において教育的効果を対組合の関係において利用し、反組合的行動に出た場合にはじめて統制違反ありと言いうるのであつて、受講自体を目して統制違反なりとは言い難い。

(4)  被告組合は、従来数回開催された会社開催のこの種講習会に組合員が参加することを黙認していたのであるから、今回、組合が右の講習会に組合員が参加するのを禁止するかどうかということは、組合運営の基本方針に関する問題であると言わねばならない、しかして、被告組合規約第十五条によると、組合運営の基本方針の決定は大会の決議を必要とするのに、これなくして、単に執行委員会の議決をもつてなした組合の右参加禁止は、正式機関の議を経ない無効のものである。

(5)  以上いずれにしても、原告等の受講行為は、組合の統制をみだしたことにはならない。

(6)  被告組合規約第十七条は、「大会の開催日時場所及び主要議題は少くとも一週間前に公示しなければならない、但し緊急やむをえないときはこの日数を短縮することができる」と規定している。しかるに、本除名大会は昭和二十七年六月十五日開催され、公示がなされたのは同月十二日であるから、その間の日数は所要日数一週間に満たない、しかも、公示期間を短縮しなければならないような緊急の事情はなかつたし、かりに、あつたとしても、緊急事情のため公示日数を短縮することにつき大会の確認を得ていないから、大会の開催手続は右の規定に違反する、しかも、この瑕疵は重大な瑕疵であり、大会の本除名決議を無効ならしめる。

(7)  被告組合規約第四十四条第四号は、組合員の権利として罰則処分に対する弁疏の権利を認めている、従つて、被処分者の請求のある場合は勿論であるが、その請求がない場合でも、被処分者がこの権利を積極的に放棄しない限り、組合は、進んで被処分者に対し弁疏の機会を与えなければならないし、しかも、それは処分決定機関において与えられなければならない、しかるに、被告組合は、本除名大会において原告等に対し弁疏の機会を与えていない、この瑕疵は重大な瑕疵であつて本除名決議を無効ならしめる。

(8)  本除名大会で代表委員成沢幸治が、原告等は受講中被告組合からの帰山勧告を受けた際反組合的な暴言をはいた旨、虚偽の発言をしたため、原告等に対し同情的であつた大会の空気を一変させた、このため、遂に除名と決議されたものである、この点につき本除名決議は実質的に無効である。

(9)  本除名決議は著しく過酷に失し無効である。

元来、除名は組合員としての身分をはく奪する極刑であるから、客観的には、その組合員の行為が組合の団結を危殆にひんせしめ又はひんせしめるおそれのある悪質な行為であつて、除名しなければ組合の団結を維持することが不可能な場合でなければならないし、主観的には、組合員の統制違反が改善不能で今後とも反復されるおそれのある場合に限定さるべきであり、この限度を超えた除名処分は処罰権の濫用として無効である。

(イ) しかるに、原告等は、被告組合の受講禁止の決定と会社の業務命令との間に立つてその去就に苦慮していた矢先、組合幹部に招かれ、組合が参加しない理由につき説明を受けたが、その際、過去における数回のこの種講習会に被告組合の組合員が問題なく参加しているし、今回の講習会には、砂川、芦別両鉱業所の組合がその組合員は勿論組合幹部をも参加さすことに決定している。しかるに、何故被告組合だけが参加に反対するのか、この点についての原告等の質問に対し納得のゆく具体的な説明はなく、かつ、原告等が組合と関係なく個人的な立場で参加するのならば、組合としてもやむをえないとの態度の表明があつたので、原告等は、問題は組合と会社との間において円満に解決されるものと信じ、かつ、これを期待して急遽上京したのであつて、組合の命令に反抗しようと言う意図は毛頭なかつたのである。

(ロ) 原告等は、出発後被告組合から数回の帰山勧告を受けたが、これに従わなかつたのは、已に出発後のことではあつたし、問題は組合と会社との間で円満に解決されるものと信じていたし、砂川、芦別両鉱業所の組合員が問題なく参加していたし、また、講義内容は何等組合の危ぐするような反組合的なものではなかつたので、組合員としての義務に違反するものではないと信じていたからである。

(ハ) 又、原告等は、かつて反組合的な言動をしたこともなく、受講後においても何等組合に敵対するような行為をしたことはない。

(ニ) 更に、本講習内容は何等組合の自主性を侵害するものではなく原告等の受講行為自体も組合の団結を弱体化させるような悪質なものではなく、単なる形式的な違反にすぎない。

されば、原告等の受講行為は客観的にも主観的にも除名に値するものではないのである。

のみならず、会社と被告組合との間には所謂ユニオンシヨツプ協定が締結されているから、原告等は、除名されれば従業員たる地位を失い家族諸共路頭に迷う危険があるし、なお、被告組合がかつてなした除名処分の先例の情状と本件の情状とを比較するとき本除名処分が著しく過酷であることが一層あきらかである。

されば、規約上、除名のほか警告、譴責、山内公示等の処罰が認められている本件において、直ちに除名処分に附した本除名決議は著しく過酷に失し無効である。

第五、以上の通りであつて、本除名決議は無効であるにかかわらず、被告組合は、これを有効だとして会社に対し協約第十三条に規定するユニオンシヨツプ協定に基き原告等の解雇を要求している。よつて、原告等は本除名決議の無効であることの確認を求めるため本訴に及んだ次第である。

(被告の不当労働行為論に対する反駁)

原告等訴訟代理人は、本講習会の開催が不当労働行為であるとする被告の主張に対し、次の通り述べた。

被告は、会社が本講習会に原告等を参加せしめたことは、被告組合に対する不当労働行為であると主張するけれども、およそ、不当労働行為が成立するためには、使用者が労働組合の団結を侵害せんとする意図とこれを侵害する行為とを必要とする、しかるに、次に述べるように、会社は、本講習会を開催するに当りかような意図は毛頭なく、ひたすら、立派な石炭生産人を養成して企業の根底を培おうと言う経営的な意図を有したにすぎなかつたし、講習会自体もその内容、方法において反組合的なものではない、従つて、不当労働行為ではない、すなわち、

(1)  本講習会が、被告主張のような講師、演題のもとに行われたことは認めるが、会社は、本講習については特定の立場に立つて或る傾向を受講者に押しつけたり、講師の判断を結論として受講者に押しつけるようなことは極力排除した。従つて、講師の人選につき、会社が故意に特定の傾向につながる者を選んだことはない、専ら、受講者の理解能力を考え、学者を避けて権威ある実際家を選んだため、かような人選となつたにすぎず、全く他意はない、現に、土田講師は破防法賛成であるが川崎講師は反対であり、矢部講師は再軍備賛成であるが曾野講師は反対である、この点からみても会社の意図はあきらかである、従つて又、受講形式も、受講者の自発的研讃を目的とし講師に対する質疑、批判並に受講者相互の討論に重点をおいたのである。

(2)  講義内容に、労働組合運動や共産主義、延いては所謂職場防衛に関連する部分があるが、現在の社会問題を論ずる場合に労働運動を除外しては無意味であるばかりでなく、生産関係者を受講者とする講習会において労働運動に論及することのあるのは寧ろ当然であるし、また、共産主義の問題にふれているのは、これを除外しては、現在の社会、思想、労働問題は勿論のこと国際情勢をも明確にすることが出来ないことに基くものである。しかも、被告組合は、かねてからその方針として共産主義とは一線をかくしているのであるし、職場防衛についても、単に会社とは一緒にはやらないと言うにとどまるのであつて、職場防衛自体を否定しているのではない。

(3)  又、会社は、講義の主題、内容等についてはすべて講師に一任していたのである、かりに、講義内容の一部に組合の意見と相違するものがあるとしても、それは、あく迄も当該講師の私見であつて会社の意見と目さるべきではなく、のみならず、講習会の性格が反組合的なりや否やは、一部講師の講義内容のみによつて決定さるべきではなく、講習会の目的、実施方法、講義全体等を綜合的に観察して決定すべきものである。

(4)  受講者については、理解力があり、かつ、家庭、職場の事情を勘案し長期出張の可能な者を選定したのであつて、思想、組合歴等は少しも考慮していない。又人員については、長く職場を離れることに基因する業務上の限定と、前述の相互討論と言う受講形式から受ける制約によつて少数とならざるをえなかつたが、本講習会は漸次広く一般従業員に及ぼす計画のもとに実施せられたものである。

(5)  又受講者に、旅費、滞在費等を支給し出張中の賃金を保障し出張扱にしたのは、業務上の出張である限り当然であり、又開催地を江の島としたのは、講師を専ら東京在住の権威者に依頼せざるをえなかつたためと、教育環境を考慮した等のためであつて、何等恩恵的、誘惑的意図に出たものではない。

(6)  講習会の終了にあたつて受講者に対し「組合の運営が民主的に行われているか」等につき所謂世論調査をしたのは、講習会の係員が上司の諒解をえず思いつきで行つたものであつて、本講習会の予定計画には入つていなかつたのである。

(7)  要するに、会社に反組合的な意図のなかつたことは、本講習会開催に際し、事前に被告組合に対し、受講者の推せんを依頼し特に組合の役員の参加をもしようようしている事実に徴してもあきらかである。

よつて、被告の主張は理由がない。

(原告等の立証と証拠認否)

(省略)

(請求趣旨に対する被告の答弁)

被告訴訟代理人は、原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求めた。

(請求原因に対する被告の答弁)

被告訴訟代理人は、原告等の主張に対し次の通り述べた。

第一原告等の主張事実中

被告組合が訴外会社の美唄鉱業所の従業員をもつて組織する労働組合であること、原告等はいずれも石炭採堀を業とする右会社の右鉱業所で労務に従事する同会社の従業員で、昭和二十七年六月十五日被告組合を除名される迄その組合員であつたこと、原告等主張の日時場所で会社が原告主張の講習会を開催したこと、本講習会開催につき会社から事前に被告組合に対しその旨の通告が非公式にあつたこと、被告組合は、これに反対の旨会社に通告し、更に原告等主張の日に執行委員会を開催して組合員の右講習会への参加を禁止する旨決定し、これを原告等に伝えこれに従うよう指示したこと、しかるに、原告等は、これに従わず原告等主張の日に美唄を出発右講習会に参加し所定の講習を受け原告等主張の日に帰山したこと、そこで、被告組合は、原告等主張の日に原告等の右行為は組合の統制をみだしたものと認めこれを理由に大会の決議をもつて原告等を除名したこと、被告組合の規約第十五条第十七条第四十四条第五十三条に原告主張通りの規定がなされていること、除名大会の公示期間が一週間に満たないこと、従来この種講習会が会社主催で数回開催されその都度被告組合の組合員がこれに参加していること、砂川、芦別両鉱業所の各組合の組合員が所属組合承諾のもとに今回の講習会に参加したこと、従来原告等に反組合的な言動がなかつたこと、被告組合と右訴外会社間の労働協約にユニオンシヨツプ協定のあること、この協定に基き被告組合が会社に対し原告等の解雇を要求していること、被告組合規約に原告等主張の如き処罰の種類が認められていることは、いずれもこれを認める。

しかし、右会社が被告組合に対し本講習会に参加すべき組合員の人選を正式に申込んだこと、被告組合が従来行われた会社開催のこの種講習会に組合員が参加することを黙認していたこと、本除名大会の空気が成沢代表委員の発言で一変したこと、被告組合幹部が、原告等に対し組合に関係なく個人として講習会に参加するのならばやむをえないとの態度を示したこと、本講習の内容が反組合的でないとの点、原告等が現在も被告組合の組合員であるとの点は、いずれもこれを否認する。

第二、原告等は本除名決議は無効だと主張するが、以下述べる通りその理由がない、本除名決議は有効である。

(1)  本講習教育は、原告等が会社に対し負担する業務についての教育ではない、従つて、会社は、原告等に対し、業務上の義務として、本講習を受くべく命じうる権利はないし、原告等にもかかる義務はない、技術教育の如く業務についての教育である場合は従業員は労働契約上の義務として、これを受くべきであるが、従業員も労働契約上は会社と対等の当事者なのだから、労働契約上の義務でない事項につき会社が従業員に対し業務命令を出すことは許されない。

(2)  従つて、原告等が本講習を受けるか否やは、本来原告等の自由と言わねばならない、しかしながら、会社が本講習会を開催し組合員をしてこれを受講さすことは、別に述べる如く、被告組合に対する不当労働行為であるから、組合がこれと戦うためこれに統制を加えることは組合の正当な統制権の範囲内である。

(3)  原告等は、被告組合は従来会社開催のこの種講習会に組合員が参加するのを黙認して来たのだから、今回、本講習会への組合員の参加を禁止するか否かと言うことは、組合運営の基本方針に関する問題と言うべく、大会の決議によるべきであると主張するけれども、被告組合は、従来共会社開催のこの種講習会に対し反対し、会社に対し抗議して来たのであり黙認していたのではない、従つて、今回の措置は決して従来の方針の変更ではない。

又別に述べる如く、会社が本講習会を開催し組合員をしてこれを受講さすことは、被告組合に対する不当労働行為であるから、かかる講習会への組合員の参加を禁止するには、大会の決議をまつ迄もなく執行委員会の決議をもつてこれをなすことが出来る。

(4)  本除名大会の開催につき規約第十七条所定の公示日数に不足のあつたことは認めるが、これは、一般組合員の間に除名大会の早期開催を希望する空気が強かつたことと、職場の公休日である六月十五日を逸すると適当な日時を選定し難いこと等の事情があつたので、緊急やむをえないものとして、同条但書を適用して公示期間を短縮したものである、しかも、この短縮につき大会の確認をえなければならないとする規約上の根拠はない。

かりに、右の手続が規約に違反するとしても、公示日数の不足は僅少であり、事案の内容は当時已に一般組合員に周知されていたし、日数の不足のために何人かに不利益を与えたと言う事実はないから、右の瑕疵は形式的なものであつて、決議を無効ならしめる程の重大な瑕疵ではない。

のみならず、原告等はいずれも大会に出席しながら、この点につき異議を主張していないから、今更これを主張することは出来ない。

(5)  本除名大会においては、被告組合は、被処分者たる原告等に対し、その請求がない場合でも進んで弁疏の機会を与えなければならなかつたとする原告等の主張は規約上の根拠がない、規約上は弁疏の機会を奪わなければそれで足りる、しかるに、原告等は本除名大会に出席しており、何時でも弁疏の機会を請求出来たにもかかわらず、敢えてこれをしなかつたのであるから、本大会の手続に瑕疵はない。

(6)  本除名大会において、成沢代表委員がほぼ原告主張の如き発言をしたことはこれを認めるが、この発言によつて原告等に同情的であつた大会の空気が一変したと言う事実は全くない、このことは、除名大会前の代表委員会で、絶対多数をもつて除名の方針が決定されている事実によつてもあきらかである。

(7)  原告等は、本除名は、著しく過酷であつて無効であると主張するが、組合員に規約所定の統制違反がある以上これに如何なる処罰を科するかは、組合の自主的判断に委すべきで外部から、従つて、裁判所もまたこれに干渉すべきではない、この団体自治の原理は、自主性を最も必要とする労働組合において特に強く尊重されなければならない、従つて、本除名がかりに妥当性を欠くとしても除名は無効ではない。

しかも、本除名処分は次に述べるようにいささかも苛酷なものではない。

(イ) 被告組合は、原告に対しその出発前誠意を披れきして、組合が本講習会に反対する理由を説明し、会社からの勧めがあつても参加せぬよう懇請し、もし参加した場合は厳重なる処罰を受くべき旨予告しており、又その出発後においても数回にわたつて帰山を勧告し、これに応じない場合は除名さるべき旨を警告している、しかるにかかわらず、原告等はこれを無視して本講習会に参加したものである。

(ロ) 原告等が、会社の参加命令と組合の参加禁止の決議との間に立つて苦慮した事実はない、進んで参加したものである。

(ハ) 被告組合は、過去における会社開催のこの種講習会への組合員の参加を黙認していたのではない、従来のこの種講習会に対する被告組合員の参加を組合が禁止しなかつたのは、事前に会社から開催の通告がなかつたため、組合は、組合員の参加を事前に知り得なかつたためである、然るに、今回は会社から組合に対し非公式ながら事前に開催の通告があり、時あたかも、被告組合は破防法、労働法規改悪反対闘争中であつて、組合の団結を一層必要とする時期であつたので本参加禁止決議をなしたものである。

(ニ) 砂川、芦別両鉱業所の各組合も本講習には反対であつた。しかし、砂川の組合は、受講者の人選を会社が組合に一任したから組合員の参加を認めたのであり、芦別の組合は、砂川、美唄の両組合が参加を承諾した旨の会社の報告があつたため、やむなく無条件で組合員の参加を認めたのである。

(ホ) 被告組合の幹部が、原告等の出発前、原告等に対し、組合と関係なく個人として参加するのならばやむをえないとの態度を示したことはない。

(ヘ) 原告等と同時に会社から本講習会への参加を求められた者のうち二名の被告組合員が、組合の指示に従つて参加を拒否しているこのことは、組合の本指示が、原告等組合員に対し決して難きを強いているものではないと言うこと、従つて、原告等の情状は極めて重いと言うことを示すものである。

(ト) しかも、本講習内容は、別に述べる如く、極めて反組合的であり、かかる講習会に参加すること自体甚だしい反組合的な行為と言うべく、又原告等はかつて反組合的な言動をしたことはないが、甚だしい組合員意識の欠如者であり改善不能の者である、又本統制違反によつて、被告組合の団結が如何に甚大な被害を受けているかは、本除名大会において、二五九票対九八票の多数をもつて除名が決定されていること、その後、被告組合が、ストライキをもつても原告等の解雇を会社に要求すべきか否やを全組合員の投票に問うた際にも、二四八九票対五二二票をもつて可決されていることに徴してもあきらかである。

(チ) 更に、本講習会が開催された時期は、あたかも、被告組合が全国の労働組合と共に破防法、労働法規改悪反対闘争の最中であり決して平時ではなく、組合の統制を最も必要とした時期であつた。

(被告の不当労働行為の主張)

被告訴訟代理人は、会社の本講習会の開催は、被告組合に対する支配介入として、不当労働行為であると次の通り述べた。

使用者が、労働組合員である従業員に対し、その所属労働組合の組織、運営、目的、政策、方針等に影響を及ぼす教育即ち組合教育をなすことは、労働組合法第七条第三号の労働組合に対する支配介入として、不当労働行為となる、しかも、その教育内容が反組合的であるとき、また更には、その費用を使用者が負担するときは、不当労働行為たる度合が益々強くなる。

しかるところ

(1)  本講習内容は、共産主義、共産党が暴力的、破かい的であることを説いたうえ、この暴力、破かい活動から職場を防衛するため、労使が協力しなければならぬとする所謂職場防衛教育である、被告組合も従来から共産党とは一線を劃してはいるが、この「労使協力による」職場防衛については、これは、共産党の破かい活動から職場を守ると言うことに名をかつて、組合を使用者に協力させ、その自主性を切りくずし、やがては、かつての産業報国会の如きものにしようとする使用者の企図の表われであるとの理由から、被告組合が従来から強く反対し来つたところである、又大野信三講師の「共産主義の理論的構造とその批判及びソ連の実体」は、自由諸国の団結と共産主義国に対する武装を提唱しており、矢部貞治講師の「自衛力の問題」は、全面講和に反対し再軍備の必要を説いているが、これ等はあきらかに、被告組合の方針である全面講和、再軍備反対に真向から対立している。

しかして、労働組合法第二条によると、主として政治運動、社会運動のみを目的とするものは、労働組合とは認められないが、同時に労働組合が、かかる事項を目的となしえないと言うのではなく、実際にも、労働運動は政治運動、社会運動と一体となつて発展して来たものである。

かくみて来ると、本講習は、被告組合の在り方についての基本的な問題につき、組合と反対の運動を組合員に教育しようとするものであつて、反組合的な組合教育であると言わねばならない。

(2)  特に、川崎堅雄講師の講義は、著しく反組合的である、同講師は「戦後の労働運動の傾向とその現状」と題して、当時被告組合が参加していた所謂「労闘スト」を政治ストだと断定してこれを非難し又現在の労働組合を共産党的だとなし、更には、被告組合の属する「総評」「炭労」の批判をなし「総評」は「総本部」的行動をとつているから、抜本的に再編成されねばならぬとし、又「炭労」の統一賃金の要求を非難している。

(3)  又会社は、本講習会自体の経費はもとよりのこと、受講者の旅費、滞在費、賃金をも負担している、しかも、この経費は莫大である、営利を目的とする会社が、単なる従業員の教養のために、かような莫大な費用を投ずるとは考えられないし、しかも、開催地は、江の島と言う遠隔かつ景勝の地であることと、受講者が特定の少数者であることとを考え合わすと、会社の支配介入の意図はあきらかである。

(4)  のみならず、講習会の終了に当つて「職場防衛の必要の有無」或は「組合は民主的に運営されているか」等組合の運営、政策等に関する数項目について、会社が、受講者の世論調査をしているが、これから見ても、会社に支配介入の意図のあつたことがわかるし、又本講習会の講師は、鍋山貞親外六名であるが、反共産主義者の中でも特に独特の傾向を有する者が中心となつており、特に川崎堅雄講師は、被告組合の属する「総評」「炭労」の傾向と反対の立場に立つ「民労研」の活動家である、会社がかような講師を選定したことから見ても、会社の意図はあきらかである。

(被告の立証と証拠認否)

(省略)

理由

原告等は、いずれも、前記訴外会社の美唄鉱業所の労務に従事する従業員であり、同鉱業所の従業員をもつて組織する被告組合の組合員であつたが、会社は、昭和二十七年五月二十二日から同月二十八日迄神奈川県江の島で従業員特別講習会を開催した、しかるところ、被告組合は、同月十九日執行委員会の決議をもつて、右講習会の組合員の参加を禁止し、原告等に対し、これに従うよう指示するところがあつたが、原告等はこれに従わず、同月二十日美唄を出発、江の島に出張し同講習会に参加し、所定の講習を受け、翌六月一日帰山したところ、被告組合は、原告等の右の行為は、被告組合規約第五十三条所定の処罰事由である組合の統制をみだした場合に該当するとして、同年六月十五日組合大会の決議をもつて、原告等を除名したことは当事者間に争いがない。

そこで、右の除名処分が、有効であるかどうかにつき争いがあるから以下この点につき判断する。

第一、会社の業務命令の効力

原告等が、本講習会に参加したのは、会社の命令に基くものであることは、証人満田武の証言によつてあきらかであるが、原告等は、この命令は業務命令であり、原告等はこれに服従すべき業務上の義務がある、かような業務上の義務行為に対しては、争議の場合は格別、本件のような平時においては、被告組合は統制権を及ぼし得ない、もしこれを許せば、それは、会社の企業経営権に対する侵害となり正当な組合活動とは言い難いと主張するから、先ずこの点について判断する。

(1)  元来、原告等が或る教育を受けるか受けないかは、原告等が国民として当然享受しうる基本的な自由であり、この自由は、最大限に尊重されなければならない。

(2)  しかしながら、原告等は、会社の従業員として、雇傭契約乃至は労働契約上の義務を誠実に履行すべき義務があるから、この立場から、右の教育の自由が、或る限度において制限を受くることのあるのはやむをえないところと考える、すなわち、例えば、技術教育の如く当該従業員の職務内容そのものについての教育とか或は、これと直接、密接な関連を有する教育については、会社は業務命令として、原告等に対しこれが受講を命じうる権利があるし、原告等もこれを受くる業務上の義務がある。しかしながら、それ以外の教育については、会社にかかる権利はないし、原告等にもかかる義務はないと考える。

(3)  そこで、問題となるのは、本講習会の講習内容であるが、証人満田武の証言と、原告角田正本人尋問の結果と、成立に争いのない甲第二号証、甲第四号証の一乃至三とを綜合すると、本講習会においては、川崎堅雄講師が戦後の日本の労働運動の傾向と現状につき、大野信三講師がマルキシズムの批判とソ連の実態につき、矢部貞治講師が国家自衛の問題とその必要性につき、土田講師が日共の動向につき、草野文男講師が中共を中心とする極東情勢につき、曾野明講師が国際情勢と日本の地位につき、鍋山貞親講師が共産党の破かい活動から産業を防衛するについての基本問題につき、それぞれ論述し、これに対し、講師と受講者との間に質疑応答があつて、本講習会が閉会されている事実が認めえられ、この認定を左右するに足る証拠はない、だとすると、本講習は、一般教養教育であつて、原告等の職務内容そのものについての教育でもなければ、又これと直接、密接な関連を有する教育でもない、従つて、会社は、業務命令として、原告等に対し本講習会への参加を命じうる権利はないし、原告等もこれに応ずる業務上の義務はない。

(4)  もつとも、原告等主張のように、近代企業においては、その効率的生産とその永続性とを確保するため、従業員に対しては、技術教育のみならず、本件のような教養教育をも必要とすることはよくわかるが、必要だからと言つて、雇傭契約乃至は労働契約上一般に義務とされない事項を、使用者が、業務上の命令として、従業員に対し命じうる権利はないし、従業員もまたこれに服従する業務上の義務はない、よつてこの点についての原告等の主張は理由がない。

第二、被告組合は原告等の本受講を禁止しうるか。

前述の如く、本講習教育を受くるかどうかは、業務上は、原告等の自由であるが、他方、被告組合は、その団結を維持するため、所属組合員の行動に対し或る限度の統制を加えうることはあきらかであり、従つて、この限度において、原告等の右の教育の自由に制限を受くることのあるのは、これまたやむをえないところと考える。

すなわち、原告等が本講習会に参加することが、被告組合の団結を弱化さすおそれがあると疑うに足りる合理的な理由がある場合には、被告組合は、この参加を禁止することが出来るものと考える。

そこで、この見地に立つて、本件をみると、

(1)  本講習会の内容は、さきに一べつした通りであるが、更に、成立に争いのない甲第四号証の一乃至三を仔細に検討すると、本講義内容には、労働組合活動乃至は労働運動に関する部分が多く、特に、鍋山講師は、共産党の破かい活動から産業を防衛するには労使の対立を超えた国家的な見地からなされなければならない旨労使の協力による職場防衛の必要を論じていることが認めえられるし、証人馬場春男の証言により成立を認めうる乙第十四号証によると、会社が本講習会を開催したねらいもこの労使協力による職場防衛教育のためであることが認めえられる。しかして、右の労使協力による職場防衛については、被告組合は、かねてから、共産党の破かい活動から産業を防衛すると言うことに名をかりて、実は労働組合を使用者と協力させ、その自主性を切りくずし、組合の産報化を企図するものであるとして、これに反対の態度をとつて来たことは、証人馬場春男の証言と同証言によつて成立を認めうる乙第十六号証によつて認めえられる。してみれば、本講習会は、組合教育、しかも、被告組合の方針に反する組合教育をその内容としていると言わねばならない。

(2)  もつとも、証人馬場春男、対島孝旦、千葉一二、の各証言に、成立に争いのない乙第二号証と弁論の全趣旨とを綜合すると、本講習会の具体的な講義内容は、参加禁止当時、被告組合には判つていなかつたが、本講習会と同一の構想をもつて、会社主催の従業員講習会が従来道内で数回開催されていたので、これ等の講習内容からみて、本講習会の内容に被告組合にとつて好ましくない組合教育のあることは被告組合に予測されていたこと、従つて、被告組合は、かような組合教育を組合と対立の立場にある会社が、しかも、後に認定するような方法、時期に組合員に対して行うことは、組合の自主性、延いては、その団結保持の上から許されないとなし、かかる理由から、本講習会に反対し、原告等組合員の参加を禁止したことが認めえられる。

(3)  次に、本講習会開催の方法をみると、本講習会は江の島と言う遠隔かつ景勝の地で開催され、しかも、極く少数の従業員を対象として行われ、かつ、受講者は出張扱とされその旅費、滞在費からその間の賃金をも保障されていることは当事者間に争いがない、かような方法をもつて組合と対立の立場にある会社が、被告組合員に対し、技術教育以外の教育を行うことは、組合の団結保持の上からみて充分問題となりうる事柄である。

(4)  更に、本講習会開催の時期をみると、証人馬場春男の証言によると、当時、被告組合は破防法、労働法規改悪反対闘争中であつたことが認めえられ、平時に比し一層組合の団結を必要とする時期に直面していたのである。

以上を綜合すると、本講習会の開催が、被告の主張するように、被告組合に対する不当労働行為であるかどうかはしばらくおくも少くとも、原告等が本講習会に参加することは、被告組合の団結を弱化さすおそれがあると疑うに足りる合理的な理由があり、被告組合はこれを禁止することが出来るものと言わねばならない。

第三、参加禁止と執行委員会の権限

原告等は、被告組合が大会の議決を経ず執行委員会の議決をもつてなした本参加禁止は、正式機関の議を経ない無効のものであると主張するから、この点につき判断する。

成立に争いのない甲第一号証の被告組合規約第二十六条によると執行委員会は執行機関にすぎないし、同規約第十五条によると組合の重要な事項は大会の議決を必要とする、しかるところ、後に認定するように、従来、数回開催された会社主催のこの種講習会に被告組合員がこれに参加しているのに、被告組合は、これ等の開催に対し明確な反対態度を示さず、瞹昧な態度をとつて来ているし、本受講禁止は、最大限に尊重さるべき組合員の教育の自由を制限するものである点に鑑みるときは、本受講禁止の処置は被告組合にとつては、まさに重大な事項と言うべく、(原告等の言うように、組合運営の基本方針に関する問題とは言い難いが)すべからく、大会の議決をもつてなさるべきであり、(かりに、本講習会の開催が、被告の主張するように、不当労働行為であるとしても)執行委員会にその権限はないものと考える、しかるに、他方、右規約の第二十三条によると、緊急に決定を必要と認める事項については、それが組合の重要な事項であつても、代表委員会においてもこれが議決をなしうるものと解しうるところ、証人馬場春男の証言と原告相沢忠良、角田正各本人尋問の結果と成立に争いのない乙第十七号証の二とを綜合すると、被告組合は、開講日の前日である五月二十一日に、代表委員会を開催して、さきの執行委員会の参加禁止の決定を確認する決議をなし、直ちに、その旨同委員会名義をもつて、已に出発後(同月二十日出発)の原告等に打電し、原告等は即日これを受領した事実が認めえられる、かような事情のもとになされた代表委員会の右の議決は、右規約第二十三条の緊急要件をも充足した適法なものであると考える、そうだとすれば、被告組合がなした原告等に対する本受講禁止の処置は、この代表委員会の議決によつて、適法に成立したものと言わねばならない。

第四、以上の説明によつて、被告組合がなした本受講禁止の措置が有効であることをあきらかにした、ところが、原告等はこれに従わず、本講習会に参加し所定の講習を受けたことは、当事者間に争いがないから、原告等が主張するように、受講後において、原告等が、この教育的効果を対組合の関係において利用し反組合的な言動に出るのをまつ迄もなく、受講行為自体、被告組合規約第五十三条所定の処罰事由たる組合の統制をみだしたものに該当し、原告等は到底処罰を免れえないものと言わねばならない。

第五、除名大会の公示日数の不足と手続の瑕疵

原告等は、本除名大会の手続には、公示日数の不足による瑕疵があり、この瑕疵は、大会の決議を無効ならしめると主張するから、この点につき判断する。

被告組合規約第十七条によると、緊急やむをえない場合の外は大会の開催日時、場所、主要議題は、少くとも一週間前に公示されなければならないこと、しかるに、本除名大会の公示の日と大会開催の日との間には、所要日数一週間の余裕がなかつたことは、当事者間に争いがない。

被告は、一週間の余裕を置きえなかつたのは、除名大会の早期開催を希望する空気が一般組合員の間に強かつたことと、職場の公休日である六月十五日を逸すると適当な日時を選定し難い事情があつたため、緊急やむをえないものと認め、規約に基き短縮したものであり違法ではないと主張するが、この緊急性の有無は、大会の議題それ自体が、緊急に決定を必要とする事項なりや否やによつて判断すべきものと考える、しかるに、当時被告組合が、原告等の統制違反に対する処罰を、緊急に決定しなければならぬような事情があつたと認めうる証拠はない、従つて、公示手続は規約に違反する違法があると言わざるをえない、しかしながら、証人対島孝旦の証言によつて成立を認めうる乙第七号証に、証人馬場春男の証言を綜合すると、公示は六月九日になされたことが認めえられる(この認定に反する証人対島孝旦の証言は措信しない)から、大会開催日の六月十五日と公示の日との間には所要日数一週間に僅か二日の不足あるにすぎず、しかも、証人馬場春男、千葉一二の各証言に成立に争いのない乙第十一号証を綜合すると、処罰事由となつた原告等の行為については、当時已に、被告組合の機関紙や職場常会等を通じる等して一般組合員に周知されていたことがうかがわれるし、又、公示日数の不足のため、原告等を含めた組合員に対し、不利益を与えたと認めうる証拠もないから、右の手続違反は、本除名大会の決議を無効ならしめる程の重大な瑕疵ではないと考える。

第六、除名大会における弁疏権制限の有無

原告等は、本除名大会においては、被処分者たる原告等に対し弁疏の機会を与えなかつた違法があり、この瑕疵は大会の決議を無効ならしめると主張するから、この点につき判断する。被告組合規約第四十四条によつて、被処分者が処罰に対し弁疏権を有することは当事者間に争いがない、従つて、被告組合は組合員の処罰を決定する決議機関、即ち大会においては、当該組合員から請求があつたときは、これに対し弁疏の機会を与えなければならないし、みだりにこの機会を奪つてはならないが原告等が主張するように、請求がなくとも、組合が進んでこの機会を与えなければならぬとする根拠はない、しかるに、原告等が、本除名大会における弁疏の機会を請求したと認めうる証拠はないし、他に組合がこの機会を奪つたと認めうる証拠もないから、原告等の主張は理由がない。

第七、原告等は、本除名大会において、成沢代表委員が虚偽の発言をしたため、原告等に同情的であつた大会の空気が一変し、除名と決議されたものであるから、本除名決議は実質的に無効であると主張するが、同情的であつた大会の空気が一変したと認めうる証拠はないから原告等の主張は理由がない。

第八、除名権の濫用

元来、組合員が組合の統制をみだした場合、これに如何なる処罰を科するかは、組合内部の自己統制の問題であるから、組合の自治を尊重せねばならぬことは勿論である、特に、団結を生命とする労働組合において、この組合自治の原理が強く尊重されなければならないことも、これ又言うをまたない、しかし、この自治にもおのずから限界がある、統制違反の認められる限り、これに如何なる処罰を科するかは、全く組合の自由であるとする被告の所論は到底採用し難い、もし、その処罰が、違反の情状に照らし、著しく過酷であり、社会通念による限界を超えている場合は、その処罰は、処罰権の濫用に基くものであつて無効であると考える。

特に、除名は、その者を組合から追放し、組合員としての身分をはく奪する刑罰における死刑に相当する極刑であり、殊に、会社と労働組合との間に所謂ユニオンシヨツプ協定が締結されている場合における組合員の除名は、従業員たる身分をもはく奪する重大な制裁であるから、例えば、統制違反行為が、著しく反組合的であつて、組合に甚大な損害を与えたとか、或は、その違反者を除名しなければ到底組合の団結を維持することが出来ないような場合でなければ、除名の正当な事由にはならないと考える。

そこで、原告等の本統制違反の情状をみると、

証人和田親敬、千葉一二、西鳥羽米一(以上いずれも後記認定に反する部分を除く)満田武、三輪勝行、徳久辰熊の各証言に原告相沢忠良、角田正各本人尋問の結果と成立に争いのない甲第三号証、乙第三号証、乙第六号証と弁論の全趣旨とを綜合すると、次の事実が認めえられる。

(1)  会社開催のこの種講習会は、従来数回開催され、その都度被告組合員がこれに参加しているのに、被告組合はこれ等の開催に対し明確な反対態度を示さず、瞹昧な態度をとつて来たこと。

(2)  今次の講習会は、美唄鉱業所の従業員のみならず、芦別、砂川両鉱業所の従業員をも併せ、この三鉱業所の従業員を対象として行われたものであるが、芦別、砂川の両鉱業所においては会社、組合間諒解のもとに、組合員は勿論組合幹部すら参加している。

(3)  原告等が、出発直前、組合幹部に対し、右の事情があるのに何故被告組合が参加に反対するのか、その理由をただしたのに対し、充分納得のゆく具体的な説明がなかつたこと。

(4)  組合幹部が、原告等が国民として有する教育の自由と組合員として甘受すべき拘束との矛盾を説明するにあたつて、多義的な言葉を用いたため、原告等は、組合に関係なく個人の資格で参加するのならば差支えないとの組合の意向であると解し、出発したこと。

(5)  本講習会が、被告組合の方針に反する組合教育をその内容としていることは、さきに認定した通りである、がしかし、職場防衛教育だから、と言うことは、被告組合が、本講習会に反対する理由にはなつていなかつたし、又、原告等は、労使協力による職場防衛が被告組合の方針に反すると言うことについては全く認識がなかつた、却つて、原告等は、本講習会は被告組合の団結にいささかも影響のあるようなものではないと信じて受講を終えていること、又、原告等が、かく信ずるのは無理もないと認めえられること。

(6)  原告等が、被告組合からの数回の帰山勧告にもかかわらず、これに応じなかつたのは、已に出発後のことではあつたし、砂川、芦別両鉱業所の組合員が問題なく参加していたし、講習内容も組合が危ぐするような反組合的なものとは考えられなかつたことによるものである、してみれば、このことは、多く原告等を責める事由とはなし難い。

(7)  原告等には、かつて、反組合的な言動はなかつたし、今回の受講後においても、さような言動はないこと。

(8)  原告等の統制違反によつて、組合の団結に甚大な損害を与えたとは認めえられないこと。

(9)  会社と被告組合との間には所謂ユニオンシヨツプ協定が締結されているから、原告等は、除名されると会社から解雇され従業員たる身分を失い、その生活は根底から動ようさせられる危険がある。

(10)  被告組合規約には、処罰の種類として、除名の外、軽い警告、譴責、山内公示が認められている。

以上の認定に反する証人対島孝旦、馬場春男、西影時男の各証言は信用出来難いし、他に、この認定を左右するに足る証拠はない、又、被告は、原告等は甚だしい組合員意識の欠如者であり、改善不能の者であると主張するけれども、これを認めうる証拠はない。

以上認定の情状を彼是綜合すると、たとえ、被告が情状重しと主張する諸事情を考慮にいれるも、なお、本除名は、社会通念に照らし、著しく過酷であり、除名権の濫用であつて無効であると言わざるをえない。

よつて、爾余の争点についての判断を省略し、原告の本訴請求は理由があるから、これを容認し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 田中登 雨村是夫 隅田誠一)

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